良質な中古住宅購入にむけて

家計の三大支出に「住居費」「教育費」「医療費」が挙げられます。このうち「住居費」について、わが国は欧米に比べて新築による住宅の取得割合が高く、家計に大きな負担を加えている要因と考えられています。

一般的には地価を除き、同一構造・同一規模の住宅であれば新築住宅よりも中古住宅の方が安価です。良質な中古住宅を安価で購入することができれば、家計に占める住居費の生涯支出を大きく減らすことが可能です。

一方、わが国には現在十分な住宅ストックが存在し、これらを有効活用する取り組みを国、不動産流通団体、建設業界、保険業界が一体となって行っています。

ここではそれらの取り組みを紹介しながら、一般の消費者の皆さまが良質な中古住宅を手に入れるためのアドバイスをさせていただきます。

わが国の住宅概況 (平成30年度 総務省住宅土地統計調査より)

平成30年度の総務省住宅土地統計調査から、現在のわが国の住宅状況を見ていきたいと思います。

空き家は879万戸

2018 年 10 月1日現在における我が国の総住宅数は 6240 万7千戸、総世帯数は 5400 万1 千世帯となっており、そのうち居住世帯のある住宅は 5361 万6千戸(総住宅数に 占める割合 85.9%)、居住世帯のない住宅は 879 万1千戸(同 14.1%)となっています。

持ち家は3280万戸で約6割

居住世帯のある住宅(以下「住宅」という。)を所有の関係別にみると、持ち家が 3280 万2千戸で、住宅総数に占める割合(以下「持ち家住宅率」という。)は 61.2%となっており、借家は 1906 万5千戸で、住宅総数に占める割合は 35.6%となっています。

中古住宅購入者は14.7%

持ち家について住宅の購入・新築・建て替え等(以下「取得方法」という。)別にみると、「新築(建て替えを除く)」が 990 万2千戸(持ち家総数に占める割合 30.2%)と最も多く、次いで「新築の住宅を購入」が 738 万9千戸(同 22.5%)、「建て替え」が 565 万6千戸(同17.2%)などとなっています。また「中古住宅を購入」は 483 万3千戸(同 14.7%)となっており、そのうち「リフォーム前の住宅」は 336 万5千戸(同 10.3%)、「リフォーム後の住宅」は 146 万9千戸(同 4.5%)となっています。

<ポイント>

・住宅の総数は国の総世帯数を約880万戸も上回っており、住戸数は十分に充足しています。

・住宅の取得形態は新築(注文住宅・建売・建て替え)が全体の約7割を占め、中古住宅の取得は15%未満に留まっています。

・持ち家率については空き家の増加などに関係なく約6割を推移しています。

住宅の耐震性能・省エネ性能の現状

中古住宅の購入を検討する上で一番重要なのが住宅の「耐震性能」です。安価な中古住宅を購入しても耐震性能が不足していると、購入後の耐震工事に多額の費用が必要になるケースもあります。

また中古住宅の性能を知るうえで参考になるのが住宅の「省エネ性能」です。省エネ性能の高い住宅は断熱効果が高く、冬の暖房時や夏の冷房時に光熱費を抑えることができ、冬場のヒートショックなどの発生も予防することができます。

また一般的に省エネ性能の高い住宅は、新築時の建築予算が非断熱住宅に比べて高いことが多く良質な住宅を見分けるうえでも重要なポイントとなります。

耐震化率は87%

現在の我が国の住宅総数約5360万戸のうち耐震性能を有するものが4660万戸で、耐震化率は87%となっています。一方耐震性能が不足している住宅も約700万戸程度存在しています。

省エネ性能

住宅総数のうち現行省エネ基準(平成11年基準)を満たす住宅は約1割程度に過ぎず、平成4年基準が22%、昭和55年基準が36%、全く省エネ性能を満たさない無断熱住宅が32%存在しています。

<ポイント>

・耐震化率は87%と高く、耐震性能を満たしている住宅の数は充足しています。

・省エネ性能を満たしている住宅、特に平成11年基準を満たしている住宅は良質な住宅であることが多いので住宅の省エネ性能は物件を見分けるうえで大事なポイントとなります。

良質な中古住宅の見分け方

中古住宅の購入を検討する場合、中古住宅には経年による通常の劣化は存在していることが一般的であること、また中古住宅の性能は個々の物件によって大きく異なることを念頭に物件選びをお勧めします。

中古住宅の購入後に後悔しないよう、物件選びは慎重に行いましょう。

ここでは「良質な中古住宅の見分け方」として住宅の大まかな判断材料になる「建築時期による方法」、やや専門的な「書類による確認方法」そして国、不動産流通団体、建設業界、保険業界が一体となって推進している「インスペクションを活用する方法」をご紹介していきたいと思います。

建築時期による方法

住宅は建築時の建築基準法などに準拠して着工されるので、住宅の建築時期によりおおよその住宅性能を把握することができます。

特に平成12年4月1日以降に建築された住宅は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が施行されたことで住宅性能が飛躍的に向上していることに加え、住宅性能評価書の交付や新築時の瑕疵保険など住宅購入者への保証が充実しているのが特徴です。

建築年月日については、一部の建築年月日が不明な住宅を除いて宅地建物取引業者や不動産紹介サイトなどで把握することができます。

昭和56年5月31日以前に建築された住宅

耐震性能 なし  断熱性能 なし

昭和56年6月1日以降~平成12年3月31日迄に建築された住宅

耐震性能 あり  断熱性能 あり(一部)

平成12年4月1日以降に建築された住宅

耐震性能 あり 断熱性能 あり

※上記の耐震性能と断熱性能の有無についての記載は、建築当時における建築基準法等の関係規定による耐震性能と断熱性能の有無をまとめたもので、その後の耐震補強などにより建築時期による該当区分とは異なる耐震性能と断熱性能を有する場合もあります。

書類による確認方法

やや専門的になりますが住宅性能を書類上で把握することが可能です。以下の書類などが確認できる場合、耐震性能等の基本的な住宅性能を有することが推定されます。

●耐震性能のみが確認できる書類

 ・建築確認通知書 ※昭和56年6月1日に交付されたものに限る

 ・耐震基準適合証明書 ※建築士による記名・押印があるものに限る

 ・既存住宅に係る性能評価書 ※耐震等級に係る評価が1以上のものに限る

 

●耐震性能を有し、住宅の劣化事象が無いことを確認できる書類

 ・建物状況調査の結果の概要 ※劣化事象の無いこと、耐震性能を証する書面が確認でき、既存住宅状況調査技術者の記名・押印があるものに限る

 ・既存住宅売買かし保険の付保証明書

インスペクションを活用する方法

調査費用などが掛かりますが、ハウインスペクターなど住宅の専門家に調査を依頼することで住宅性能を把握することができます。ハウスインスペクターは住宅の現地調査を実施し、「住宅の構造耐力上主要な部分」と「住宅の雨水の侵入を防止する部分」について国の告示に基づく調査基準に適合するか否かの判断を行います。

また上記の調査に加え、耐震性能を有するか否かについての確認を行います。この耐震性に関する確認については、前節の「書類の確認」のみにとどまらず、耐震性能の証明書類と現状が一致しているかどうかなど、構造耐力上主要な部分等に影響を及ぼす工事等が行われていないかの確認を行いますので、耐震性に関してより現状に近い客観的な判断ができます。

出典:国土交通省

ハウスインスペクターにより「構造耐力上主要な部分等に劣化事象がないこと」と「耐震性能を有すること」について確認ができた住宅は「既存住宅売買かし保険」に加入することができ、保険に加入した場合、購入後の住宅に欠陥を発見した場合であっても金銭的な保障を受けることができます。

<ポイント>

・建築時期を確認することで基本的な住宅の性能を把握することは可能です。

・住宅建築時の書類を確認することができればさらに詳しく住宅の性能を把握することが可能です。

・建築時の書類の確認だけでは、その後の経年による劣化や変化を把握することはできないので注意が必要です。

・建築後にどの程度のメンテナンスがされているかによって購入後のリフォーム費用が大きく変わります。

・費用は掛かりますが、インスペクションを活用することで、建築時の住宅性能と現時点での劣化状況の両方を確認することができます。

・インスペクションを受けて一定の条件を満たすと「既存住宅売買かし保険」に加入することができ、加入住宅は保険の範囲内で金銭的な賠償を受けることが可能です。

良質な中古住宅購入にむけて

良質な中古住宅を購入する上で最も大切なことは、購入を検討している物件の住宅性能がどの程度か、また新築時からの劣化がどの程度進行しているのかを正確に判断することです。

建築時期や建築時の書類確認によって、新築時の住宅性能がどの程度のものとして建築されたのかを確認することは可能ですが、現時点での劣化事象を確認するためにはインスペクションを活用するほかありません。

現在このインスペクションの担い手となる「既存住宅状況調査技術者」が活躍しています。既存住宅状況調査技術者は平成29年に国土交通省の告示により規定された国家資格で、既存住宅に関するインスペクションのプロフェッショナルです。

当協会ではこのインスペクションの普及と既存住宅売買かし保険の加入促進に向け、一般消費者の皆さまにインスペクションを利用しやすい環境を整備しするとともに、国家資格者である既存住宅状況調査技術者のみを対象とした当協会独自の講習を実施し、その修了者をハウスインスペクターとして認定しています。

建物の劣化状況を正確に判断するためには専門家による調査が欠かせません。インスペクションを活用し「良質な中古住宅の購入」にお役立てください。

ハウスインスペクターにご相談ください

中古住宅(物件)は工業生産されている中古車などと違い、物件ごとの品質には大きな違いがあります。仮に同一時期に同一の建築会社で建設された物件であっても、その後の所有者の維持管理等の違いにより長い年月を経て現状の住宅性能に大きな違いを生じているのが一般的です。

一般に良質な中古住宅とされる住宅の特徴は以下の通りです。なお土地条件など不動産固有の条件は加味していません。

 ・築浅であること(平成12年4月1日以降に建築された住宅など)

 ・住宅性能評価書などが付いているもの

 ・新築時に瑕疵保険に加入しているもの

 ・建物状況調査を受け劣化事象がないもの

 ・中古住宅売買かし保険に加入しているもの

などがあげられますが、いずれに該当しているか判断が難しく、また上記に該当する物件の数も多くないのが現状です。

一般的に流通している中古住宅は売主の方が居住中であることなども多く、その場合は中古住宅の再販業者などから、いわゆる「リフォーム済み住宅」などを購入する場合と違い、物件について提供される情報が少ないことも多いようです。

中古住宅の購入は新築住宅を購入するより一般的に購入費が安く抑えられるといったメリットの反面、住宅の性能についての不安や購入後後のメンテナンスに費用が掛かるといったデメリットもあります。

ハウスインスペクターに調査を依頼する場合には調査料金がかかりますが、購入予定の住宅を調査しておくことで住宅の耐震性能や現時点での劣化事象など、国の調査基準による全ての調査項目について所定の調査結果報告書を受け取ることができます。

国の調査基準はこちらをご覧ください:既存住宅状況調査とは

調査結果については物件購入の是非を判断する重要な要素として活用できるほか、購入直後のリフォームの要否をはじめ、リフォームの見積り依頼を行う際の事前資料などにも活用することができます。

ハウスインスペクターに調査の依頼を行う場合の料金の目安はつぎの通りです。

 建物状況調査の費用の目安について

ハウスインスペクターへの調査依頼は「建物状況調査マッチングサイト」で簡単にご依頼いただけます。

 建物状況調査マッチングサイト(別ウィンドウが開きます。)

 

<ポイント>

・良質な中古住宅の購入には、物件の現状を正しく把握することが欠かせません。

・「既存住宅状況調査技術者」は住宅を診断するための国家資格です。

・ハウスインスペクターは「既存住宅状況調査技術者」のみが取得可能で、当協会独自の講習を修了しています。

・中古住宅の調査には、「既存住宅状況調査方法基準」という国の調査基準があります。

・調査依頼は当協会の運営している「建物状況調査マッチングサイト」から簡単に依頼することが可能です。

保険加入で金銭的な保障

「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により平成12年4月1日以降に新築された住宅には「住宅かし担保責任保険」への加入が義務付けられており、新築時の住宅に不具合が生じた場合、保険加入の範囲内で修補を受けることができ、新築住宅の購入者に金銭的な保障を担保しています。

「中古住宅売買かし保険」は中古住宅を購入した一般の購入者に、新築の購入者と同様に保険加入の範囲内で修補を受けることを保障したもので、購入後の住宅に万一不具事象が発生した際には、保険加入の範囲内で修補や金銭的な賠償を受けることができます。

なお「中古住宅売買かし保険」の加入は新築住宅の「住宅かし担保責任保険」と違い、原則として住宅を購入される方が任意で加入するものです。また加入にあたっては保険加入の審査に適合する必要があります。

ハウスインスペクターは住宅を購入される皆さまに調査の安心に加えて、保険による安心をプラスするため、保険加入の手続きのご相談もお受けしています。(一部お取り扱いのない調査事業所もあります。)

既存住宅売買かし保険について詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

 既存住宅売買かし保険

<ポイント>

・インスペクションを受け、一定の要件を満たした中古住宅を購入すると新築住宅の「住宅瑕疵担保責任保険」に準じた「既存住宅売買かし保険」に加入することが可能になります。

・保険に加入した住宅に、万一、インスペクションで分からなかった不具合や欠陥などが見つかった場合、保険の範囲内で金銭的な賠償を受けることができます。

まとめ

良質な中古住宅が購入できた場合、同程度の新築住宅を取得した場合に比べ、住居費の生涯支出を大きな割合で減らす効果が見込めます。

しかしながら、中古住宅は個々の性能差が大きいことに加え、メンテナンス状況もまちまちですので、工業製品などのようにカタログやパンフレットで品定めをすることが難しいのが現実です。

中古住宅の物件探しを始めたらぜひお近くのハウスインスペクターにご相談ください。

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